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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)1659号 判決 1950年3月01日

被告人

淸水秀雄

主文

本件控訴を棄却する。

當審において生じた訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人白井俊介控訴趣意第一点について。

刑事訴訟法第三百一條は同條に掲げる規定により証拠とすることができる被告人の供述が自白である場合には犯罪事実に関する他の証拠が取り調べられた後でなければ、その取調を請求することはできないと定めているがこれを刑事訴訟規則第百九十三條と対比してみれば、右は他の証拠の取調に先立ちまず自白の取調を行つてはならない趣旨の規定と解するを相當とすべく、從て被告人の供述が自白である場合でもその取調の請求については必ずしも右の制限に從うを要しないものというべく、而してその取調についても他の証拠が取り調べられた後であればよいので他の証拠の取調に引続きこれが取調を行うことは何等差支えないものと解する。そこで本件について見ると原審第一囘公判調書によれば檢察官は起訴状記載の犯罪事実に関し被害者原哲之介提出の盜難届以下所論摘示の各証拠書類に続いて被告人の所論各供述調書につき一度に取調の請求をしたこと、これに対して被告人及び弁護人(辻祿也)がいずれも右各書類を証拠とすることに同意する、その取調の範團順序等は裁判所において然るべく決定を求める旨述べ原裁判所はこれによつて檢察官の右請求全部を許容し同請求の順序によつて順次その取調を行い、被告人の所論各供述調書は右各証拠のうち最後に取調をしたものであることは明らかであるかくて檢察官において被告人の所論各供述調書につき他の右各証拠の取調前にその取調を請求したわけになることは所論の通りであるが、この点については前段敍説の如く解する(殊に同供述調書は右の如くその順序において最終にその取調を求めておる)ので、これを不適法とする所論は當らない、又右証拠調は右の如く引続きなされたのではあるが、檢察官の取調請求の順序によつて行われ結局被告人の所論各供述調書は前記各証拠のうち最後にその取調がなされたのであるから、これ亦前に説明したところにより刑事訴訟法第三百一條の規定に從て行われたものとなすに妨げないものというべきである。(中略)論旨は理由がない。

(弁護人白井俊介の控訴趣意第一点)

原判決は、訴訟手続に法令の違反があつてその違反があつてその違反が判決に影響を及ぼすことが明らかである。

原審第一囘公判調書(記録九丁以下)を見ると、裁判官は証拠調に入る旨を告げ檢察官は証拠により証明すべき事実を明らかにした後、一の事実につき原哲之助提出の盜難届、二の事実につき司法警察員作成の田中長次許春吉の同司法警察員に対する供述調書原哲之助提出の実見始末書及び仮下請書、三の事実につき司法警察員作成の市川勘四郞淸水秀雄の同司法警察員に対する各供述調書、副檢事作成の淸水秀雄の檢察官に対する供述調書四の事実につき檢察事務官作成の被告人の前科調書の取調を請求し、裁判官は檢察官の右証拠調の請求に対する被告人及弁護人の意見を聴いた後檢察官の右証拠調の請求は全部之を採用して前記載の順序により檢察官をして朗読及び展示をなさしめこれを行うとの決定を宣し檢察官に対して右書面の朗読及び展示を促した。檢察官は右決定に基き順次右書面を朗読し被告人及弁護人にこれを囘示し裁判所に提出した旨の記載があり裁判官は他の証拠と被告人の供述調書とを一度に採用しておることが明らかである。

刑事訴訟法第三百一條は被告人の供述が自白である場合には犯罪事実に関する他の証拠が取調べられた後でなければその取調を請求することはできないことを規定している。証拠決定は勿論、その前行手続である証拠調の請求ができないのである。原審はこれを無視し違法な手続によつて審理判決したものであつて破棄を免れない。

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